Poco a poco

元音楽療法士、現音楽講師の音楽考。

声の出し方を見直そう

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こんにちは、ボイストレーナーのreinaです。

今日は、「声の出し方」について説明していきます。

歌をうたうとき、多くの人が「声を前に出すこと」を意識していると思います。

具体的に言うと、「マイクに向かって声を出している」ですかね。

 

この考え方はあながち間違いではないのですが、もっと歌を上手くする方法があります。

それは

「ボールを投げるように声を投げる」

という意識です。

 

ドッジボールくらいの大きさのボールを持っていると想像してみてください。

このボールを腕を肩より後ろに引かずに、前に投げてみます。

どれくらい遠くに飛ぶでしょうか。勢いは? スピードは? 威力はどうでしょう?

遠くに飛ばそうと、腕に力を入れれば入れるほど、腕の動きは固くなり、ボールの勢いも威力も飛距離もなくなるのが想像できると思います。

 

それでは、このボールを今度は腕を後ろに大きく引いてから、ふりかぶるように投げてみます。腕を後ろに引かずに投げた時より、遠くに楽にボールが飛ぶのがイメージできると思います。

 

歌もこれと一緒です。

肩から前だけでうたおうとすると、思うように声は出ないものです。声量を上げようと、身体に力を入れてうたうと、余計に喉が硬くなり、どんどんうたいにくくなります。

うたっていて喉が痛くなる、苦しくなる、声が重い、声がこもる、等の悩みがある人は、ボールを投げる時のように声を一旦後ろに引いてから、前に投げるよう意識してみましょう。

 

それでは、具体的にどういうふうに声を後ろに引けばよいのか? を説明していきます。

まず、口の中の奥行きを感じるために、黒人のゴスペルシンガーになってみます。

日本人に比べて、黒人は顔の骨格が前後に広い人が多いため、黒人の骨格をトレースするように自分の顔を作ってみます。特に、口の前後の広さを広く保つよう、口を少し突き出し、口の奥の壁をさらに後ろに置いて、顔を前後に広げてみてください。

 

次に、口の上下の空間を広げるために、口の中にホールを作ります。

口の中に小さな大聖堂があるイメージです。合唱や声楽では、よく「あくびの口」と表現しますが、口の中の天井を高く保って、口の上下の空間を広く保ちます。

口の中を広く開けて! というと、舌に力が入り、舌が上がる人がいますが、舌が上がると空間が狭くなるので、舌は寝た牛のように、脱力して放っておきます。

 

これで、口の中の土台は整いました。

では、実際に声を出していきましょう。

最初は、声を後ろに引く練習をしていきます。

声は裏声を使います。

 

「う」の母音で、声を長く伸ばします。

この時、息を掃除機で後ろ上に吸われるように、頭の後ろ上に向かって吐いていきます。口の中は黒人の大聖堂、舌は寝た牛のままです。

この時、息を「軟口蓋」という場所に当てていきます。

軟口蓋は上あごを舌で前から後ろにつたっていった時、後ろの方にある柔らかい場所です。あくびをする時に、自然と持ち上がる場所ですね。

ここを息の圧力で持ち上げるように、息を吐いていきます。

 

まず、この「後ろに引いた声」が安定して出せるようになるまで、繰り返し練習してみてください。

安定して出せるようになったら、その声を前に投げていきます。

 

ボールを投げる時のように、声の着地点を決めます。

最初は路上ライブで目の前にいるお客さんに届けるくらいの距離でやってみましょう。

距離感がうまくつかめないときは、譜面台等を3メートルくらい前に置くとわかりやすいです。

 

ボールを投げる時の軌道をイメージして、この声をボールだと思って投げていきます。

実際に投げる時のように、腕を後ろに引いて、ふりかぶる動きをつけながら声を出してみるとイメージしやすくなります。

声は軟口蓋を引き上げて後頭部に集めてから、目と目の間から前に流していきます。

この時、ボールと同じでまっすぐに投げようとすると、うまく声は前に飛びません。

着地点に向けて、弧を描くように投げていきましょう。

裏声でうまくできるようになったら、地声でも同じ流れで練習してみます。

 

3メートルの距離でうまく着地できるようになったら、次は自分がライブハウスでうたっている所をイメージしてみます。

まずは小さなライブハウスで構いません。

ステージの目の前のお客さんから始めて、真ん中くらいのお客さん、一番後ろのお客さんにそれぞれ届けるように、どんどん距離を伸ばして練習してみます。

 

プロのシンガーは、この距離感を変えることで、声のボリュームや抑揚をコントロールしています。

ぜひ、毎日の練習に取り入れてみてください。